火星とエウロパの次に天王星を調べるべき理由

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
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火星とエウロパの次に天王星を調べるべき理由
1986年にボイジャー2号が撮影した天王星 Image: NASA/JPL-Caltech

奇妙な環と傾きに季節の変化、そして27個の衛星と、天王星は太陽系の中でも風変わりな惑星です。この巨大氷惑星が謎に満ちているからこそ、天文学者らは天王星への近接探査ミッションを声高に求めているのです。

30年以上前にボイジャー2号がその姿を捉えたきり

ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所の惑星科学者Kathleen Mandt氏は、天王星に特化した初のミッションは長いこと待ち望まれていると説く原稿をScience誌のPerspectives(見解)に寄せました。

遠方の巨大氷惑星への唯一にして短かった訪問からは、確かに随分と時間が経っています。NASAのボイジャー2号が天王星を通過したのは1986年1月24日。惑星とその衛星の美しい光景を捉えてから、(太陽系のもう1つの巨大氷惑星である)海王星そして星間空間への旅を続けたのでした。

土星と木星と同様に、天王星と海王星も宇宙で最も軽い元素2つである水素とヘリウムに覆われています。Mandt氏は、「天王星と海王星が巨大氷惑星と呼ばれるのは、土星や木星よりも水素と比べて重い他の元素がさらに存在するからです」とメールで説明。「土星と木星は主成分が水素なので、巨大ガス惑星と呼びます」

ボイジャー2号が撮った写真から天王星への興味が芽生えるも、30年以上経った今でも再訪は叶えられていません。

火星とエウロパの次は天王星を調べるべき

Mandt氏は寄稿でまさにそのための具体策、NASAによる天王星専門のミッション「ウラヌス・オービター・プローブ(天王星の周回機と探査機、略してUOP)」の重要性を説いています。天王星の軌道上に留まったオービターが惑星そのものや衛星と環の観測を行ない、さらには大気の組成を詳しく調べるためのプローブが配備されるというものです。

天王星への専門ミッションの必要性は以前から叫ばれていました。NASAが全米科学アカデミーに実施させているディケーダル・サーヴェイ(10年ごとの調査)は、今後10年の各研究分野での優先順位が示された報告書です。その最新版で、次の10年間で解明したい問題とされたのが、「巨大氷惑星ついての知識不足」でした。サーベイはUOPを最優先の惑星ミッションに分類しましたが、その結論は前回のサーヴェイで下されたものだとMandt氏は指摘しています。2013年版のサーヴェイで最優先として挙げられたマーズ・サンプル・リターンとエウロパ・クリッパーは現在、両方とも全力で進められています。次に順番が来るのは天王星専門のミッションだと同氏は論じているのです。

天王星には謎が多い

このミッションは天王星のさまざまな謎の解明に役立つでしょう。惑星科学者たちは、巨大氷惑星とその形成過程、形成時の位置からの移動について理解を深めようとしています。

太陽系の歴史の詳細もわかるかも

天王星の近接探査は、小さな天体がどのように水と生命の他の構成要素を内部太陽系へと広められたのかを明らかにするので、太陽系の歴史の詳細を明らかにできる可能性があるとMandt氏。このような研究は、遠方の系外惑星と“それらの系の構造”の手がかりにもなると寄稿には書かれています。そのためには、同位体比と巨大氷惑星内に存在する貴ガスの量の細かい測定値が必要になりますが、そういったデータは大気プローブなら容易に収集できるんだそう。

天王星が極端に傾いている理由も知りたい

天王星が極端に傾いている理由も、答えを求めている疑問になります。98度の傾斜角は「その84年周期の軌道で激しい大気の季節的な変化を引き起こす」ものの、「地球から靄や雲を観測したのでは、大気循環と風のパターンを説明するのに十分な情報を確保できません」と書かれていました。

UOPは天王星の磁場を研究し、惑星の内部構造(コアの状態など)について新たな知見をもたらすかもしれません。それに、天王星が従えている衛星たちも観測対象となります。

ボイジャーの写真に気になるところが

「天王星の衛星たちは木星の4大衛星や土星の衛星タイタンよりもはるかに小さいです。小さいので固くて活動してないはずで、そして地表にあるのは衝突クレーターだけのはずなんです」とMandt氏。「面白いのは、ボイジャー2号の画像にはそれほど多くのクレーターは写っていなくて、その代わりに地質学的な活動で形成されるような特徴が写っていたという点。衛星の内部構造を研究して、地表が非常に若い理由を解き明かしたいし、液体の水の痕跡を見つけたいですね」とのこと。

天王星には氷殻の下に液体の水を有する衛星が1つ以上あるかもしれず、宇宙生物学者らは天王星系を近接観測するチャンスを心待ちにしていることでしょう。

実現には長い準備が必要、困難も伴う

このミッションの計画は、2022年の惑星科学部門ディケーダル・サーヴェイの一環として公表されたOrigins, Worlds, and Life (OWL)など既知の文献をベースに築けるとMandt氏は主張。その計画では、木星の大きな重力を活用して宇宙機を最終目的地に向けて加速させるため2032年までのUOPの打ち上げを提唱しています。UOPは2050年より前に天王星に達する模様。これらは大まかな見積もりですが、このミッションが承認されたら実現しそうなタイムフレームです。

オービターとプローブにどんな観測機器を搭載したいかMandt氏に聞いてみたところ、以下の返信がありました。

「プローブには、質量分析装置が最も重要な機器となります。この機器は質量に基づいてどの元素と分子が大気にあるのかを測定できます」「天王星がどこで形成されて形成後にどのくらい移動したのかを解き明かすには、この情報が要るのです。オービターは異なる波長を測定するカメラと、電子・イオン・磁場を見つけるセンサーを含む機器類の組み合わせが必要になります」

地球からこんなにも離れて活動したオービターはないため、ミッションにはいくつかの変わった難題が立ちはだかると思われます。地球から太陽までの距離の20倍近く離れているので、UOPから信号は地球の地上局に届くまでに3時間かかります。そのため、「コマンドを送る際に計画を立てることが重要になり、新たな成果を待つときには忍耐を要する」そう。十分な太陽エネルギーを集めることもまた困難となるかもしれません。Mandt氏は「探査機カッシーニに搭載されていた、そして現在もボイジャー1号・2号探査機とニュー・ホライズンズに電力を供給し続けているような原子力電池が必要」と述べていました。

もしこのミッションに携わる機会を与えられたら、プローブの観測計画の立案や、天王星の衛星と環の組成を研究する計画の作成を手伝いたいようで、「NASAから次のステップの発表を心待ちにしています」と語っていました。

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https://www.gizmodo.jp/2023/02/curiosity-rover-evidence-water-on-mars-nasa.html

Source: Science, National Academies,