航空宇宙技術を手がける英国のRolls-Royce Holdings(ロールスロイス・ホールディングス/同名の自動車ブランドとは「起源を同じくする、今は別の会社」という関係)は、宇宙飛行市場へ参入しようとしています。はるかかなたの月や火星へ向かう宇宙旅行でエネルギー源として利用可能な、超小型原子炉を開発中なのです。
人類は再び宇宙を目指し、20年以内に月と火星へ宇宙飛行士を送る計画です。実現させるには、太陽系の遠くまで有人宇宙船で飛行する技術が欠かせません。これに対し、ロールスロイスは1月終わりに、宇宙飛行用の超小型原子炉をTwitterでチラ見せし、設計案と模型画像を披露しました。
A Rolls-Royce Micro-Reactor is designed to use an inherently safe and extremely robust fuel form. Each uranium particle is encapsulated in multiple protective layers that act as a containment system, allowing it to withstand extreme conditions.https://t.co/OOc9kBGXDxpic.twitter.com/wkXmZgzhrs
— Rolls-Royce (@RollsRoyce) January 27, 2023
完成した原子炉がTwitterに投稿された模型画像のような形になるかどうか、今のところ分かりません。この原子炉について、革新的製品&サービス部門トップのJake Thompson氏はロールスロイスの公開したプロモーションビデオのなかで、「構想、設計、開発、試験という段階」を踏んでいる途中だと述べました。つまり、最終形態のきちんとした発表を行うのは、まだまだ先ということです。逆にいえば、Thompson氏は、ロールスロイスが基本的なプロトタイプを作っていると認めたことになります。
宇宙船の推進力を科学エネルギーから核エネルギーへ
ロールスロイスのツイートによると、この原子炉の燃料は、一般的な核分裂燃料と同じくウランです。
ちなみに原子炉内では、中性子をぶつけられた原子核が分裂し、エネルギーを生み出します。そのエネルギーを、ロケットの推進力に変えるアイデアです。原子炉は、潜水艦などのエネルギー源として以前から使われています。
ところが、宇宙船はこれまで化学エネルギーばかり利用していて、核エネルギー由来の推進力は考えられずにきました。
ロールスロイスは2021年、原子炉技術の開発に取り組むと表明し、事業開発資金として政府および民間から6億ドル(約809億円)獲得しました。原子炉の場合、使う燃料は化学推進ロケットより少なくて済みます。その結果、宇宙船全体の重さが軽くなり、高速に移動できたり、積載量を増やせたりします。ロールスロイスによると、原子炉は新たな方式の推進力を生み出すだけでなく、月や火星で活動する際のエネルギー源としても使えるそうです。そして、2029年までに月へ送る方向で作業を進めています。
従来の化学燃料と異なるロケット推進方式を開発する取り組みは、ロールスロイス以外にもあります。たとえば、米国の航空宇宙局(NASA)と国防高等研究計画局(DARPA)は、より短い時間で深宇宙に到達できる核熱ロケットエンジンの共同開発を発表しました。さらにNASAは、現在の推進システムに比べ少ない燃料で大きな力が得られる、回転デトネーション方式によるロケットエンジンの試験を成功させています。