気候の時限爆弾を止めるための分岐点に立つ人類。IPCC報告書

  • author Molly Taft - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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気候の時限爆弾を止めるための分岐点に立つ人類。IPCC報告書
Image: Netta Arobas / Shutterstock

チクタク、チクタク…。

今後10年で温室効果ガスを半減させなければ、気候変動の影響は最悪レベルに達する。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、最新の報告書で明確なメッセージを発信しました。

今後数年間が重要な分岐点で、私たちの選択が破滅的状況を回避するための取り組みを左右するだろうとしています。

気候変動に関する主要な国際機関であるIPCCが3月20日に発表した第6次評価統合報告書AR6)によると、世界の排出量削減には一定の成果が見られるものの、排出量がそれを上回って毎年増加しているため、深刻化する影響によって地球環境と生態系は予測以上の速さで変化しているそうです。

しかし、まだ気候変動を逆転させる方法は残っています。ただし、そのチャンスは急激に小さくなっていると報告書は指摘します。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は、「気候の時限爆弾は時を刻んでいる」と警告し、報告書を「人類にとってのサバイバルガイド」と位置づけています。

気候変動の研究結果や科学的事実に関する悪いニュースばかりが並んでいるように感じるかもしれませんが、ひとつのソースから情報を得るのであれば、迷わずこのAR6を選んでください。

若干保守的すぎる部分もありますが、必要なことがすべて詰まっています。

記事作成時点ではまだ政策決定者向け要約の和訳は公表されていませんが、そのうちアップデートされるはずなので、気象庁の「IPCC第6次評価報告書(AR6)」のサイトをチェックしてください。

IPCCってなに? 最新報告書ってなに?

世界中の科学者数百人で構成されるIPCCは、5~7年ごとに気候変動の科学を広く深く再分析し、情報を最新バージョンにアップデートしています。

報告書の発表は今回で6度目。第1次報告書は1990年に発表されました。

AR6には、3部会(自然科学的根拠/影響・適応・脆弱性/気候変動の緩和)による報告書と、第5次報告書(AR5)以降に発表された3つの特別報告書(1.5℃/土地関係/海洋・雪氷圏)がまとめられています。

多大な労力が注ぎ込まれたこの報告書に掲載されている科学は、そんなに新しいものではありませんが、回を重ねるごとに確かさは増しています。

位置づけとしては、気候に何が起こっているのか、そして私たちが何をすべきなのかを世界に示す分厚い参考書で、今後数年間に世界中の政府や企業が気候変動対策の指針として活用すべきものです。

IPCCは現状をどう伝えてるの?

まず肝の部分からいきます。産業革命前と比べて、世界は1.1度温暖化しました。

そして、主に化石燃料使用による温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を「引き起こしてきたことは疑う余地がない」と、報告書はこれまで以上にキッパリと指摘しています。

衝撃的なのは、1850年以降に排出された温室効果ガスの42%が、1990年から2019年の30年間に集中していることです。

排出量が削減できた分野もありますが、エネルギー、産業、輸送、農業、建物からの排出量は増加の一途をたどっています。

2010年から2019年までの10年間における年平均排出量は、過去最高を記録しました。つまり、何やってんの状態なんです。

排出量増加と気温上昇は、世界の大気と海洋、生態系に「広範囲かつ急激な」変化をもたらしています。

報告書は、熱波、海面上昇、干ばつ、暴風雨、豪雨の深刻化と排出量増加の科学的な相関関係がこれまで以上に強くなっており、今後さらにひどくなるだろうと予測しています。

このような変化による影響はすでに山火事や種の絶滅、食料システムの崩壊、自然環境の炭素吸収源から排出源への転換などで確認されていますが、それもこれからますます加速すると思われます。

多くの地域や人々は変化に適応してくることができましたが、それもいつまで続くかわかりません。限界は急速にやってきます。

温暖化すればするほど、その影響は悪化します。急速な変化についていけない生態系の一部は、不可逆的な転換点に近づきつつあります。

振り返ってみると、変化の多くは、過去に発表されたIPCC報告書の予測を上回る速さで起こってきました。化石燃料への依存が、地球環境に加速度的な変化をもたらすことを明確に示しています。

報告書は、避けようがない不可逆的な変化もあるものの、地球規模の温室効果ガス排出量を迅速かつ継続的に行なうことで、変化を抑制できると述べています。

温暖化が進めば進むほど、急激な変化や不可逆的な変化が起こりやすくなります。

それと同じように、確率は低いものの、最悪の事態につながる壊滅的な気候災害も、温暖化が深刻になるほど起こりやすくなると報告書は警告しています。

未来への希望はあるの?

ここ、すごく重要。いつだって希望はあります

温暖化による壊滅的な災害を防ぐためのツールを私たちは持っています。そして、報告書は今後数十年における温暖化対策のシナリオをいくつかモデル化して提示しています。

でも、地球上で暮らすすべての人々が気候変動に適応して生きていける社会に移行するには、公平と公正を優先させることが鍵になるとのことです。

2015年に約200カ国が署名した、国際的な気候政策の屋台骨となる「パリ協定」は、2100年までの気温上昇を産業革命前比で最低でも2度以下に抑えることを目標に、そしてそれを大きく下回る1.5度を努力目標に掲げました。

たった0.5度しか違わないじゃんって感じるかもですが、その0.5度が命にかかわったりするんですよ。

たとえば、2度上昇すると、1.5度上昇した場合よりも「異常な猛暑」に見舞われる人が6300万人も多くなります

風前のともしびとはいえ、まだ1.5度目標を達成できる可能性はあります(その場合、ほぼ間違いなくいったん1.5度を超えて、ネットゼロ達成後から2100年までの間に世界平均気温が1.5度まで下がることになるでしょう)。

そのためには、世界の温室効果ガス排出量が今後2年以内(2025年まで)にピークを迎える必要があります。

たとえそれが実現したとしても、いったん1.5度を超えてから、ネットゼロ(排出量と回収・貯留量が均等)とネガティブ・エミッション(回収・貯留量が排出量を上回る)を可能にする技術や天然資源に頼らなければ、目標をクリアできないでしょう。

1.5度以下達成の条件は、2025年までのCO2排出量ピーク到達と、2035年までのCO2排出量65%削減(2019年比)だそうです。

現実的な話をすると、今のままでは1.5度はおろか、2度以下すら夢のまた夢です。その代償として世界中の人々が悪夢を見ることになるでしょう。

そもそも、世界に現存する化石燃料のインフラを利用し続けるだけで1.5度を超えてしまいます。そこに新規プロジェクトを加えると(世界中で新たな化石燃料掘削と火力発電所建設が計画されています)、2度なんて余裕で超えちゃうんです。

ネットゼロだ、カーボンニュートラルだと声高に唱えながら、やってることは真逆なんです。

新たな科学的事実がなくても報告書は重要なの?

先述したとおり、IPCC報告書は5~7年ごとにしか発表されないので、次回は2030年頃になると思われます。

これから数年間の選択が未来を決定づけてしまう可能性があることや、2025年の気候変動サミットで各国政府が排出量削減計画をアップデートする予定であることを考えると、政策決定者向けの最新情報が掲載されているAR6はとても重要です。

今後数十年間で私たちが下す決断は、数千年先の世代まで影響を残します。果たして人類は気候変動による大惨事を食い止められるのか。この報告書は、その重大な危機を乗り切るためのガイドブックなんです。

各国政府や自治体、企業がこの報告書をグリーンウォッシュのガイドブックとして悪用しないことを願います。

Reference: 気象庁(1, 2), 環境省