ローマ郊外に存在する広大な遺跡、Villa of the Quintilii(クインティーリの別荘)。その一角にある約1800年前のワイナリー遺跡を考古学者たちが発掘したところ、ワイン造りを眺めるスペースが設けられていたことがわかりました。富裕層はワインの生産という労働を、娯楽の一種として見せていたのです。
ワイン造りの工程を見物する客人をもてなす豪奢な部屋がワイン貯蔵室を囲む形で配置され、そして内装(大理石の床など)は実用性よりも見た目を重視して取り入れられたことを研究チームは発見。彼らの成果はAntiquityに掲載されています。
ロンドン大学古典学研究所の研究者Emlyn Dodd氏は、
農業労働は、とりわけ富と地位の源だったことから、多くの古代文化の支配階級によって美化されていました。
と同大学のリリースの中で説明しています。
Villa of the Quintiliiで発掘された遺跡は、古代ローマの上流階級の人々が労働者たちの実用的なニーズよりも鑑賞する人たちの体験を優先させて、毎年のワイン造りを“劇場型”パフォーマンスとして捉え直していたと明らかにしています。
とのこと。そんな遺跡の細部を見てみましょう。
華やかな舗床
ローマでは2世紀末から3世紀初めにかけて人気だった、オプス・セクティレ技法で作られた床です。224年のゴルディアヌス3世の退位以降、この遺跡で活動があった痕跡は見つからなかったとのこと。
西側の食堂からの眺め
ワイン醸造所の貯蔵室は、いずれも製造プロセスとは関係のないと考古学チームが考える3つの部屋に囲まれています。
つまり、客人がワイン造りの工程を見物するための部屋であって、そのため貯蔵室に向かって広く開かれた戸口が備わっていたのです。
ワイン貯蔵室
ワイン貯蔵室の地中にはドリアと呼ばれる、ワインを入れておくための陶器製の大きな甕が埋まっていました。この写真からは、どんな配置で置かれていたのかが窺えます。
似たような“劇場型”ワイン醸造の遺跡
アナーニにあるVilla Magna(ヴィラ・マグナ)も、ワイン造りを眺めるエリアを備えていた豪華なワイナリー遺跡です。ワイン貯蔵室と、観覧スペースの位置関係が分かる同遺跡のイラスト。
遺跡の空撮写真
注釈付きの画像。ブドウ踏みエリア(A)、プレス機(B1, B2)、プレス機のレバーが伸びていたと思われる部屋(C1, C2)、ブドウ液を集めるための大桶(D)、ワイン貯蔵室(E)、食堂(F1, F2)となります。
ドリアの修理
このドリアの口縁部は、遥か昔に修理されていた模様。ローマ時代に壺の修理によく使われていた、二重蟻継ぎの締め具が口縁部に残っています。
北東の階段
ワイン貯蔵室からブドウ踏みとプレス機エリアへと続く階段の大理石仕上げは、現在も残ったままです。
Source: Antiquity, University of London,