スペイン沖で、シャチがボートを転覆させる事故が頻発しています。
頭が良く、サメの天敵として知られるシャチですが、人間に対しては温厚だと言われています。そんなシャチが、なぜボートを転覆させているのでしょうか?
研究者たちからは、“学習行動の可能性”が囁かれていますが、果たして……?
今年だけで数十件の転覆事故
5月25日、地元の海上レスキューサービスが、数頭のシャチがセーリングボートを破壊したと発表しました。
しかも、今回たまたまではなく、スペインとポルトガルで発生したシャチによる攻撃は、今年に入って数十件にも上っているんです。
あるセーリングボートは、早朝にイベリア半島のジブラルタルに向かって進んでいたところ、シャチの群れに船底を破壊されてしまいました。修理の必要があったので、救助船がスペインのカディス県バルバテ港まで曳航したそうです。
シャチとの遭遇は2020年から増加しています。なぜ温厚なはずのシャチが船を攻撃するようになったのかの明確な答えはわかっていないものの、“トラウマ”が関係すると考える研究者もいるみたいです。
人間への攻撃はトラウマが原因か?
ポルトガルのアヴェイロ大学の海洋生物学者であるAlfredo López Fernandez氏は、「多大なる苦痛」を経験したシャチが関与している可能性をLive Scienceに語っています。「トラウマを抱えたシャチが船に対する物理的攻撃を始めたのです。シャチは意図的に攻撃しています」と話しています。しかし、この考えに懐疑的な研究者も。
ブリティッシュコロンビア大学で海洋哺乳類の研究をしているAndrew W. Trites氏は、CBS Newsに次のように語っています。
「『トラウマを抱えたメスのシャチが報復するために船に突進していて、その技術を他のシャチにも教えている』といった主張を読みましたが、それはちょっと違うのでは。レンガの壁に振るスピードで突っ込むのと同じようなことをやっているわけで、怪我をするじゃないですか」
調査団体のGTOAによると、去年だけで攻撃は207件も発生しており、ジブラルタル海峡では、今月に入って20件も発生していることが明らかになっています。
ワシントン州のOrca Behavior Institute(オルカ行動研究所)で所長を務めるMonika Wieland Shields氏は、「被害を引き起こしているので攻撃行動だと捉えられていますが、攻撃が動機になっているかは断言できないと思います」と話しています。
同氏は、シャチが一般的に温厚であり、人間に対して攻撃的な行動を取るとは考えられていないと念を押しています。それは過去に捕獲対象になっていたときですら、彼らは温厚だったという理由から来ています。
「60年代から70年代には、漁師に撃たれたり、シャチの家族が捕獲される場所がありました。もし復讐が攻撃のモチベーションなのであれば、そのときにも発生していたでしょう」
過去にはこんな事態を予測するような映画も
シャチが人間への復讐のために船を攻撃する……。こう聞いて思い出すのは、1977年のアニマルパニック映画『オルカ』ではないでしょうか。
水族館に送るためにオスのシャチを生け取りにしようとするも、誤って妊娠中のメスを殺してしまい、怒ったオスが漁師に復讐するストーリーです。シャチが高い知能を持ち、愛情深い生き物であることを描いたメッセージ性の高い映画でした。
この映画になじみがあれば、トラウマを抱えたシャチが復讐を始めた、という考えもすんなり受け入れてしまうかもしれません。というか、「やっぱり『オルカ』は正しかった」と思ってもおかしくないかも。
しかし、現時点では、シャチがこのような行動を取るようになった原因も理由も憶測の域を出ていません。ひとつ言えることは、事故が頻発しているエリアではボートに乗らない方が良さげ、ってことでしょう。