追う王者、時代の主役はAIなのね。
先日「秋の新製品イベント」を行なったAmazon(アマゾン)。かつてAlexaやEchoスピーカーで世界をアッと言わせた同社には、「今年もヒット商品を生み出すべし」という見えないプレッシャーがかかっています。
ヴァージニア州アーリントンにあるAmazonの第2本社で開催された今回のイベントは、コロナが流行して以来、同社にとって初となる対面イベントです。同時にAmazonがテック系プレス向けに新製品のデモを直接披露できる場でもありました。
この数年AlexaとEchoを超える新製品はなし
AlexaとEchoスピーカーといえば、天気を教えてくれたり、オンデマンドで音楽を再生してくれたり、さらには家中の照明をオンオフしてくれたり…と長年私たちの生活に密着してきました。
その一方で、特定の商品専用の注文機器DashボタンやFire Phoneなど、不発に終わった製品も少なくありません。
スマート時計やスマート電子レンジなど、興味をそそられる発明もあったのですが、顧客にはそっぽを向かれてしまうことに。Alexaに音声で買い物をお願いするというスタイルも、いまいち普及しませんでした。
音声だけでは製品やショップを比較したり、仕様を確認したり、顧客レビューを読んだりできなかったからです。
最新AIと比べてAlexaは会話スキルがいまいち?
さらに、ChatGPTやGoogle Bardのような新しいAIシステムが登場したことで、Alexaの会話スキルはどうしても原始的に感じられるように。
Apple(アップル)のSiriにもいえることですが、最新の競合製品と比べると、明らかにAIとして能力が足りない感じです。
筆者の個人的な感想では、Alexaに問題があるわけではないのですが、さすがに最近は「ちょっと鈍くない?」と感じることも。やはり最新のAIモデルに慣れてしまった自分がいます。
なので今回の新デバイス発表会では、Amazonから新EchoやFire TV Stickの新バージョン以上のものを見せてくれると期待していたのです。
既存デバイスのAI能力をグレードアップ
Amazonの幹部であるデビッド・リンプ氏は、Alexaについて「生成的AI能力をアップグレード」し、「優れたAIを作り出すために何が必要かを研究」し、マイクやカメラ、近接センサーといった複数のセンサーを駆使して「よりリアルな会話体験を生み出した」ことなどを語っていました。
Alexaは会話起動時間がアップ
最新のAlexaはオンデマンドで詩を書いたり、レシピを提案したりと、昨年ChatGPTが見せたのと同じような特技を披露してくれました。そして特に印象的だったのが、会話時間が長くなったこと。
これまでのAlexaは、ちょっと話が途切れると会話から離脱してしまいました。しかし、新しいAlexaでは、タイムアウトを心配せずに会話を続けられるようになったのです。
Amazonとしては、Alexaとの関係をただの「言葉のやりとり」ではなく、「会話」にすることを目標としており、「Alexa」というウェイクワードを繰り返さなくても、何度も質問しながら会話を続けることができるようになっています。
ただ、それも良し悪しで、そうなると今度は会話が終わってもAlexaがずっと聞き耳を立てているのではないか…と不安になります。もちろん手動で会話を終了させることは可能ですが、果たしてそんなことを覚えているユーザがどれだけいるでしょうか…?
Fire Max 11はアイトラッキング機能に注目
Fire Max 11タブレットの新機能“Eye Gaze”は非常に興味深いコンセプトです。
Eye GazeはApple Vision ProやPSVR 2など、次世代のVRヘッドセットに搭載されているビジョントラッキングを取り入れたもの。つまり声ではなく、目線で画面上のアイコンを選択できるシステムです。アイトラッキングは今後ますます普及していくでしょう。
米Echoデバイスには緊急連絡サービスが追加
米EchoデバイスにEmergency Assistサービスが追加されたのも注目ポイント。これは緊急サービスや緊急連絡先にオンデマンドで連絡することができるもので、Apple Watchの衝突検知機能と、昔ながらの緊急呼び出しボタンをミックスしたようなもの。
ただ、このベーシックなサービスに月額6ドル・年間60ドル(約9,000円)という料金がかかるのは、ちょっと納得いかない気もします。
Alexaが改良される一方、他のデバイスについても新たな発表がありました。
Echo Showの新バージョン、廉価版"Echo Pop"のキッズバージョン、Fireタブレットのキッズバージョン、ヘッドホンにもなるスマートグラス"Echo Frames"のリニューアルなどが披露されました。120ドル(約1万8000円)のスマートサウンドバー“Fire TV Soundbar”もいいですね。テレビの内蔵スピーカーを使うのが、とっても損な気がしちゃいます。
他のデバイスも高機能をプラス
Fire TVのハードウェアは確かに優秀ですが、世の中のコンテンツがすべて4Kから8Kに移行しなければ、本領を発揮することができません。
新バージョンのFire TV Stick 4Kは7,480円で、高機能WiFiと高速プロセッサーが追加されています。Fire TV Stick 4K Maxは9,980円で、HDRとDolby Atmosに対応しており、新しいストリーミングTVデバイスが欲しい方にはおすすめです。
そして、デモ公開されたAlexaはコンテンツを見つけるのが得意。お勧め映画を探してもらうときも、例えばジャンルを元に聞いても、出演する俳優さんについて曖昧に尋ねても、画期的なほどにしっかり答えてくれます。
例えば「『Breaking Bad』で弁護士を演じた俳優」と聞いただけで、ボブ・オデンカークの映画が出てききました。自分がサブスクしているサービスの映画、つまり「私が無料で見られる映画」を検索できるのも便利です。
また、画像生成AIのDall-EっぽいAIアートを背景としてテレビに貼り付けたり、写真にAIフィルターをかけて新しい背景を作ったりすることもできます。
この機能は特に目新しいわけでも、それほど便利というわけでもありませんが、Fire TV製品に追加されたことで、カジュアルなエンタメファンにとってより身近なものになったといえます。
スマートホーム制御能力がアップしたEcho Hub
最後に、一番驚いたのはスマートホームデバイスのコントロールに使える新しいMap View機能です。家の中をマッピングし、スマート照明や電源がどこにあるかをマップ上に表示し、スマホのAlexaアプリから視覚的に操作できます。
新しい壁掛け型のEcho Hubは、Echo Show 15の小型版という感じで、カメラやMatterデバイスをはじめ、あらゆるスマート電球やカメラを制御することが可能。価格は2万5980円。「複数の規格が交錯し、セットアップが複雑」という、現代人が生み出した問題(Amazonが生んだ問題?)を解消してくれます。
しかし、今回のAmazonのイベントには、2021年のAstroロボットのような画期的なハードウェア新製品はありませんでした。2019年以来アップデートされていない私のお気に入りのKindleや、ハイエンドのOasisも、新バージョンはなかったのです。
その代わりに登場したのが、10年前に誕生したAlexaを現代的に変身させる大型言語モデルAIでした。確かに切実に必要なものですが、新しいロボットのようにワクワクするものではありませんね…。