マシンと細胞を合体させて移植。糖尿病の注射がなくなる?

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マシンと細胞を合体させて移植。糖尿病の注射がなくなる?
Image: Shutterstock

注射器、持ち歩かなくてよくなるかも。

マサチューセッツ工科大学(MIT)が、マウスに体内でインスリンを分泌する端末を埋めこみ、正常に働いたとの研究を発表しました。

今はマウスにおける話ですが、研究が進みそのうち人間で同じことが可能になれば、糖尿病患者のインスリン注射が不要になるかもしれません。

インスリンの働き

血液中の糖の濃度を下げ、一定幅に収める働きをするホルモン、それがインスリンです。この流れがうまくいかないと高血糖となり、糖尿病の発症へとつながります。

1型糖尿病は、自身の過剰すぎる免疫システムがインスリンを分泌するすい臓にある細胞を攻撃してしまうことで起きます。すい臓がダメージを受けると、インスリンの分泌が不十分になります。なので不十分なインスリンを外部からの注射で補い、血糖値を下げるのです。

このインスリン注射の発明で多くの糖尿病患者の命が救われている一方、注射を怠れば命の危険もあります

拒絶反応が起きない細胞移植

注射以外でインスリンを補う方法は、インスリンを生成する「すい島細胞の移植」という方法があります。しかし、身体に拒絶反応がでないよう、患者は免疫抑制剤を服用し続けないといけません

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Image: Claudia Liu and Dr. Siddharth Krishnan, MIT/Boston Children’s Hospital

今回、MITの研究チームは、ドナーから提供された細胞を直接患者の体内に戻す(拒絶反応がでてしまう)のではなく、細胞を小さな機械の中に入れ、その機械を患者の皮膚下に埋め込む、というアプローチを取りました。

この手のマシン系で問題となるのは、細胞が機械内部で生き続けるための酸素供給。化学混合物などから酸素を作るパターンもあるそうですが(それだと化学混合物の補給が必要になる)、MITの機械は体内の水分子を分解して酸素を作る膜を備えることでそれを解決しました。

こうして機械がガードとなり、細胞が1型糖尿病の攻撃的な免疫システムから守られた状態でインスリンの分泌を行なうことができます。

あくまでも理論上ですが、これなら永久的に酸素提供が可能です。ちなみに、機械の電力は微量電圧でワイヤレス充電可能ですって。持ち歩くのは、充電のために皮膚に貼り付けるパッチだけになっている可能性もあります。

マウスでの実験は良好な結果

MITチームが行った実験で酸素供給マシンを埋め込んだ糖尿病マウスは、少なくとも1ヶ月は健康的な血糖値を維持できました。一方で、酸素供給マシンがなかった糖尿病マウスは2週間もたずに血糖値が上昇。

また、酸素供給マシン糖尿病マウスには、埋め込んだ機械の周りに傷跡ができたものの、機械に対する免疫システムの反応としてはよくあるもの。そしてマシン全体の機能が著しく低下することはなかったとのこと。

糖尿病以外にも応用可能

研究に携わっているMITの化学工学教授Daniel Anderson氏は、MITのプレスリリースの中で研究結果を踏まえ、これを「生きる医療機器」と称しています。

インスリンを分泌する人間の細胞とその生命維持のためのサポート電気システムを一緒にした生きる医療機器だと思います。これまでの進展にはとても感激しており、この技術は患者の役に立つはずだと非常に前向きに考えています。

研究はまだ初期段階。今後チームはマウスより大きな動物でのテストを行なう考えです。また、さらなる安全性や長期的利用での状況なども研究していくとのこと。

チームが研究に前向きなのは、糖尿病を超えた活用が予想されるからです。貧血症などの外部で生成した物質を体に定期投与する必要がある、多くの症状に利用できる可能性があります。

Source: MIT