科学的知見は、最新の情報に日々アップデートされることで、より不確かさがなくなっていきます。科学の理想は、知見の積み重ねによる自己修正です。栄養学ほどそれを実証している分野はないんじゃないでしょうか。
例えば過去には専門家が、「脂肪はなんでもかんでも悪い」と言っていました。コレステロールもぜんぶ悪玉扱い。ところが今や、悪玉コレステロールを抑えてくれる脂肪があるといわれています。
心血管系疾患のリスクがある人は、コレステロールを多く含む食品の摂取を制限するよう推奨されてきましたが、コレステロールの急上昇はもう恐れられなくなりました。なにごともほどほどにってことなんでしょうね。
食生活の推奨事項が変化しているのと同じく、特定の食品についての科学的な同意もときどきアップデートされています。ここでは、長い間「健康に悪い」と言いがかりを付けられてきたけど、実はそうじゃなかった食べ物と飲み物7選を紹介しますね。
卵
1つめは卵。
中でも卵黄は、「コレステロール=悪」の声が高まったときに非難の的になりました。理由は低比重リポタンパク(LDL)コレステロールが多すぎると、動脈にプラークができやすくなり、心臓発作などの心血管系疾患につながる可能性があるから。
しかしながら、多くの研究で卵を食べてもコレステロール値にほとんど影響しないとされています。それでも、卵黄を摂りすぎるとコレステロール値が上昇すると主張する研究者もいるため、まだ議論は終わっていません。
今のところ、食生活ガイドラインでコレステロールの摂取量に関する厳格な制限は設けられていません。
キャノーラ油
世界で最も広く使われている食用油であるキャノーラ油は、1970年代のデビュー以来、何度も悪評にさらされてきました。例えばインターネット黎明(れいめい)期には、高コレステロールから狂牛病まで、あらゆる病気との関連性があると恐怖を煽るチェーンメールのネタにもされました。
近年は、人々の健康をむしばむ有害な「菜種油」の1つとして悪役扱いされています。
1990年代当時も、2020年代に入った現在も、キャノーラ油が健康に悪いとする強力な証拠は見つかっていません。実のところ、キャノーラ油は他の食用油と比べて一価不飽和脂肪酸の含有量が多いなどの優れた点もあります。
また、ビタミンEやビタミンKなども豊富なんですよね。揚げ物や焼き菓子によく使われますが、キャノーラ油が悪いわけではありません。食べ過ぎなければどうということはないんです。
ジャガイモ
ジャガイモは、主成分である炭水化物の消化が早すぎてあっという間に血糖値が上昇してしまうため、不健康な食品として扱われる向きがあります。
血糖値上昇の度合いを表すグリセミック指数が高い食品は基本的に健康に悪いとされ、肥満をはじめとする健康問題を引き起こす可能性があると主張する科学者もいます。
しかし、グリセミック指数が一般的な食生活の目安として有用かどうかについては、まだ議論の余地があるようです。最近の研究では、イモ類が他の炭水化物と比較して腹持ちが悪いわけでも、早期死亡の原因になるわけでもないと判明しています。
基本的にジャガイモが不健康と言い切れないとはいえ、フライドポテトは健康にベストな食べ方ではありません。
また、ジャガイモやトウモロコシ、豆類のようなデンプン質の高炭水化物野菜よりも、なるべく根菜類やほうれん草、キュウリなど非デンプン質の低炭水化物野菜を摂るようにしましょう。
あと、非デンプン質の低炭水化物野菜だからと安心して、テキサスの人みたいになんでもかんでも揚げないでね。
MSG(化学調味料/グルタミン酸ナトリウム)
MSG(グルタミン酸ナトリウム)は加工食品、特にテイクアウトの中華料理によく使われる添加物で、トマトやチーズにも含まれています。
20世紀初頭に日本で昆布出汁から作られたのが始まりとされ(現在はビーツなどの野菜を発酵させて作ります)、食品に旨みや肉のような風味を加えるとされます。MSGは、科学者よりも一般の人々によって悪役に仕立て上げられてきた歴史があります。
MSG入りの料理を食べた後に、アレルギー反応として頭痛や吐き気、胸やけなどを訴える人が続出したおかげで、「中華料理店症候群」という造語もできちゃいました。
MSGへの懸念があまりにも広まったため、1990年代には食品医薬品局(FDA)が調査を開始するも、MSGと症状の関係を裏付ける証拠は見つかりませんでした。世界保健機関(WHO)などによるその後の調査でも、決定的な証拠は発見されていません。
一般的にMSGをとっても大丈夫とみなされていることもあって、「中華料理店症候群」を差別的として、Merriam-Webster辞書からの完全削除を求める声もあります(リンク先のトップ画像はなぜか「味の素」)。
理論的にMSGへのアレルギーを持つ人がいる可能性はありますが、平均的な人が軽いアレルギー症状を起こすのに必要なMSGの量は、一般的な食事から摂る数倍と推定されています。
牛乳(全乳)
アメリカでは何十年もの間、あらゆる有名人やアスリートたちが「牛乳を飲め」と言い続けてきました。
全乳には、慢性疾患につながる低比重リポタンパク(LDL)コレステロール値を上昇させる飽和脂肪酸が多く含まれているため、低脂肪乳や無脂肪乳、植物性ミルクよりも健康に悪いとされてきました。ところが、卵の食事性コレステロールと同様に、最近は飽和脂肪酸が本当に健康に悪いのか疑問視されています。
また、脂肪分の摂取を避けるために控えるようにと言われている全乳ですけど、有益な成分も豊富に含まれているとして、昔ほど悪者扱いされなくなりました。
最近の研究によれば、全乳は植物性ミルクと比較して特に栄養価が高く、子どもにとっては低脂肪乳と同じくらい健康に良く、大人にとっても子どもにとっても減量効果がある可能性も示唆されています。
冷凍野菜 & 冷凍フルーツ
野菜や果物は、冷凍させたり解凍させたりすると重要な栄養素が失われてしまうので生のままがいいという説がありますが、これは世間一般に広がっている誤解で、科学者には支持されていないみたいですよ。
実際のところ、複数の研究で、冷凍された野菜や果物(缶詰も含む)には、生のものと同じだけ栄養素が含まれることが明らかになっています。
さらに、野菜や果物の種類によっては、常温や冷蔵庫で保存しても傷んだり腐ったりするものもあるため、冷凍保存の方が食べるときに栄養価が高くなる場合もあるとのことです。
コーヒー
コーヒーが健康にいいのか悪いのか、科学者たちの見解はコロコロ変わるといわれてきましたが、現在は「コーヒーは体に悪くない」で一致しています。
コーヒーを日常的に飲むと心不全のリスクが下がるなどのメリットがある可能性さえありますが、健康にいいと答えるにはさらに研究が必要とのこと。
コーヒーに含まれるカフェインの刺激によって、精神的に不安定になる人もいるかもしれませんが、1日に1~2杯程度なら、一般的に健康への害はないといえるでしょう。
「健康に悪くない」に「環境に悪くない」と「お財布にやさしい」を加えて考えると、頭の中がグチャグチャになるんですよね。三兎を追わずに確実に一兎を得た方がいいんでしょうか…。