『ゴールデンカムイ』のリアルさから感じるクマ映画の進化

  • 10,834

  • author 中川真知子
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
『ゴールデンカムイ』のリアルさから感じるクマ映画の進化
Photo: Shutterstock.com

話題の映画『ゴールデンカムイ』、皆さんはもう観ましたか?

北の大地を舞台としたアイヌ埋蔵金を巡る冒険狩猟グルメ漫画として、絶大な人気を誇る野田サトル作『ゴールデンカムイ』を原作とした作品で、製作中は不安の声が上がっていたものの、いざ公開されたら「こういうのを求めていたんだ! 」と絶賛コメントがたくさん寄せられているんですよ。

Video: 東宝MOVIEチャンネル / YouTube

原作ファンの私も不安と期待が入り混じった気持ちだったのですが、上映開始直後から「あ、こりゃいい作品だわ」と、安心した気持ちで最後まで楽しめました。

いろいろと語りたい部分はありますが、特に注目したのはヒグマです。私はヒグマが好きで、ヒグマが出ていると聞いただけで作品をチェックしているのですが、本作は「日本でもここまでのヒグマアクションが見られるようになったのか〜」とちょっとした感動を覚えるレベルでした。というわけで、映画におけるヒグマと人間の共演の歴史についてちょっと語らせてくださいね。

劇中ヒグマは大きく4つに分けられる

ヒグマと人間を共演させようとした場合の選択肢は大きく分けて、着ぐるみ機械仕掛けのアニマトロニクス本物VFXの4つになります。

着ぐるみヒグマが出てくる代表作は、なんといっても『アーノルド・シュワルツェネッガーのSF超人ヘラクレス』(1970年)でしょう。ヘラクレス扮するアーノルドの強さを見せるために、ヒグマとレスリングします。まぁ、本物ではできませんよね。

次に、アニマトロニクスですが、こちらはメインで使用されることはなく、動物に危険が及ばないようにと用意されることが多く、シーンのごく一部に留まることが多いようです。例えば『子熊物語』(1988年)では5体のアニマトロニクスのグリズリーが用意されましたが、本物の迫力には敵わないということで登場箇所は一部です。

意外にも本物を使った作品はたくさんあります。前述の『子熊物語』もそうですが、『グリズリー』(1976年)、『ザ・ワイルド』(1997年)、『グリズリー・レイジ』(2007年)、『ブラックフット』(2014年)などなど数多く存在します。

Video: IFC Films / YouTube

これらのクマ(ヒグマやグリズリーに限らないのでクマと書きます)の背景はさまざまですが、トレイナーに訓練された子たちで、人馴れ度に応じて撮影の方法が違います。クマのシーンと人間のシーンを別で撮影して、編集でそれっぽく見せることもあれば(カメラの切り替わりを見れば一目瞭然)、至近距離で共演していることもあります。

俳優クマとして映画に引っ張りだこだったクマのバート(1977〜2000年)は、80〜90年代におけるリアルなクマ映画を支えました。その功績が認められ、1998年のアカデミー賞でプレゼンターまで務めたんですよ。

@etalkctv The year was 1998. Mike Myers and Bart the Bear took the stage together to present the award for Best Sound Editing at the 70th Academy Awards. Bart starred in over 20 movies, TV shows, and commercials and joined the Oscars broadcast to celebrate animal actors. 🫡 Watch the 95th Academy Awards Sun. March 12 at 8pET on @ctv.🏆 (Courtesy of A.M.P.A.S.) #oscars#oscars2023#academyawards#mikemyers♬ original sound - etalk

今でも演技をする動物はいますが、映画業界におけるアニマルウェルフェアの意識はどんどん高まっているので、無理をさせないことが大前提です。『ブラックフット』(2014年)も本物のクマを使っていますが、参加しているクマは2頭で、人間を襲っているように見えるシーンは、鶏肉の中に詰められたチェリーパイを貪っています。

最後がVFX。VFXの技術が発展したことによって、私たちはリアルなクマが手加減なしに人を襲うシーンを見られるようになりました。代表作はなんといっても『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)でしょう(『コカインベア』(2023年)も忘れちゃいけない! )。

あれはクマの動きや人間を攻撃する際の行動を徹底的に研究したパフォーマーが演じたのをベースに、VFXで作られています。

では、『ゴールデンカムイ』(2024年)のクマはどうやって作られたのでしょうか。

VFXと特殊造形を駆使

ヒグマに襲われたり、戦ったり、ヒグマの肉をえぐったりする必要がある『ゴールデンカムイ』では、VFX特殊造形が駆使されました。

演技のために用意されたのは、CGで作ったヒグマのデータを発泡スチロールに出力して、粘土で肉付けしたリファレンス用のヒグマと、 CGのヒグマにVFX加工したもの。咆哮は本物の音声が採用されています。観客がVFXの稚拙さで興醒めしないように、ヒグマシーンには最新の注意を払われているんですって。

アニマルパニック映画に出てくるクマと異なり、ヒグマを脅威として描くのではなく、カムイとしての敬意を表し、そのすべてを感謝しながらいただくところまで描く必要のある『ゴールデンカムイ』において、ヒグマとのインタラクションはもう1段階高いレベルを求められています。特殊造形で再現された肉片や胆嚢(たんのう)は、上質な油分をたっぷり含むフレッシュさが感じられて「好き(よき)」でしたね。

ハリウッドなどで描かれる恐怖の対象としてのクマではなく、アイヌ文化における畏敬の対象としてのヒグマっぽさが表現されていたと感じたし、ヒグマ映画の歴史の新たな一ページになった気がします。

Video: 東宝MOVIEチャンネル / YouTube

というわけで、ヒグマファンとしてかなり満足な『ゴールデンカムイ』。日本のヒグマもこのレベルになったのだな、と軽い感動を覚えましたよ。

ホラーか? コメディか? ナマケモノが人間を襲いまくる映画『Slotherhouse』

ナマケモノが館で人を襲うホラー映画『Slotherhouse』が全米公開。

https://www.gizmodo.jp/2023/08/slotherhouse-movie.html