「SEQTRAK」は見た目だけじゃない。誰にでも曲が作れるオールインワンシンセ

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  • author Jun Fukunaga
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「SEQTRAK」は見た目だけじゃない。誰にでも曲が作れるオールインワンシンセ
Photo: Jun Fukunaga / SEQTRAK(グレー/オレンジ)。見かけもいい。

発売前から大きな話題になっていたヤマハのオールインワンシンセサイザー、SEQTRAKが2024年1月26日についに発売されました。

SEQTRAKは、ドラムマシン、シンセ音源、サンプラー、エフェクター、内蔵スピーカー&マイクなど、音楽制作に必要な機能がコンパクトな筐体にぎっしり詰まった文字どおりオールインワンなシンセサイザー。

さらに外部機器と有線接続できる基本的な端子や専用アプリとワイヤレス接続できるBluetooth MIDI、大容量のデータ転送を可能にするWi-Fi機能も搭載されるなど、接続機能も充実。現代の音楽制作スタイルにもばっちりフィットする仕様は、さすがに音楽機材の名門ヤマハメイドという感じがします。

発売前から注目が集まっていた筐体のルックス

入力ポート
SEQTRAK本体右側面。USB Type-Cジャックやオーディオインなど各種入力ポートがある。

グレー/オレンジ(SEQTRAK ORANGE)とブラック(SEQTRAK BLACK)の2カラー展開なので、自分の好みにあったモデルを選べるところも良きです。あと、なんといってもこれだけ機能がてんこ盛りで見かけもいいのに、お値段はわずか税込5万5000円。価格的にも無理なくゲットできる音楽ガジェットという印象。

いろいろと魅力あふれるSEQTRAKですが、実際に使ってみた感想をレビューしていきます。

主要機能のひとつ「ドラムマシン」

まず、SEQTRAKの本体左部分にある主要機能のひとつ「ドラムマシン」は、「キック」「スネア」「クラップ」のほか、「ハット」と「パーカッション」がふたつずつの全7トラックで構成されています。各トラックの音源は本体の内蔵プリセットと自由に入れ替えることもできます。

SEQTRAK「ドラムマシン」
SEQTRAK「ドラムマシン」部分。ステップは入力すると黄色く光る。

SEQTRAKでは、ベーシックなドラムマシン同様、ドラムパターンをステップシーケンサーを使って入力していくほか、リアルタイムでも入力可能。ここで面白いのは打ち込んだドラムパターンに自分好みの味付けができる「マイクロタイミング(発音タイミングの微調整)」や「サブステップ(ステップの連打数の設定)」「プロバビリティ(ステップの発音確率の変更)」という機能が設けられているところです。

たとえば、単純にステップシーケンサーでハイハットを打ち込むと非常にマシンライクなドラムパターンができあがります。しかし、先述の機能を使うことで特定のステップの発音タイミングをズラしたり、連打させたり、発音させる確立を調整することで、マシンライクな理路整然としたドラムパターンにアクセントがつきます。これによって、いい感じのグルーヴを生み出すことができたり、過剰にこれらのパラメーターをいじることでちょっと不思議なグルーヴを作れたりもします。

この機能は一度自分でドラムパターンを入力してみて、グルーヴの足りなさを感じた時に使用すると良いでしょう。これでかなりドラムパターンのノリが変わります。

シンセサイザー&サンプラー

お次は本体中央部分の「シンセサイザー&サンプラー」。こちらにはヤマハの「AWM2」音源による「シンセ」がふたつとデジタル音源の「DX」「サンプラー」の全4トラックで構成されています。

SEQTRAK「シンセサイザー&サンプラー」
SEQTRAK「シンセサイザー&サンプラー」。赤く光るキーが録音ボタン。

ドラムマシン同様、シンセとDX、サンプラーも本体に内蔵されているプリセット音源と入れ替えができるほか、サンプラーは内蔵マイクで音声を録音したり、外部から取り込んだりした音を鳴らせます。

ちなみにサンプリングするソースは内蔵マイク/AUDIO IN入力、USBオーディオ入力、リサンプリングに対応。この機能を使うことで内蔵マイクで自分の声をサンプリングしたり、手持ちのサンプリングネタをSEQTRAKに取り込むことが可能です。

もちろんシンセサイザー、サンプラーともに、ステップ入力とリアルタイム入力が可能。両方ともシンセサイザー&サンプラーつまみの下に配列されているキーで入力できます。ちなみにこの部分は4×2の8個のキーで構成されており、上段左上の赤く光るキーが録音部分になっています。リアルタイム入力する際はこちらをオンにしてから残りの7つのキーを使ってシンセやサンプルを入力していきます。

ただ、ドラムマシンとは異なり、シンセなどメロディーに関わる部分の入力となると「音楽理論がわからないから不安」という人もいることでしょう。ご安心ください。SEQTRAKにはシンセサイザーで入力する音階をあらかじめ指定できる「スケール」機能が搭載されてます。

たとえば、この機能でスケールを特定のスケールに設定しておけば、仮に適当に入力したとしても、その音階からハズレた音は鳴りません。それとSEQTRAKには「コード」機能も備わっています。この機能をオンにすれば、ボタンひとつでコードが鳴らせます。ちなみにSEQTRAKにはピアノ的に演奏するための鍵盤入力モードもありますが、コード理論がわからない、あるいはもっと感覚的にコードが鳴らしたい場合はかなり重宝します。

サウンドデザイン&エフェクター

そして、最後の主要機能が本体右部分の「サウンドデザイン&エフェクター」です。

SEQTRAK「サウンドデザイン&エフェクター」
SEQTRAK「サウンドデザイン&エフェクター」。右部分にはエフェクトを操作するタッチスライダーがある。

この機能では、音源の切り替えや各トラックのパンニング、ボリューム、ピッチなどの変更から、各トラックの音のアタック(音の立ち上がり)、ディケイ(音の減衰)、リリース(音の長さ)の調整やエフェクトの切り替えやかかり具合など、SEQTRAKで鳴らす音のパラメーターを細かく調整できます。

また、SEQTRAKのエフェクトは、トラックエフェクト・センドエフェクト・マスターエフェクトの3種類で構成されています。2種類のフィルターと2バンドEQからなるトラックエフェクトはマスター(SEQTRAKで鳴らす音全体)とシングル(指定したトラック)に適用可能。

センドエフェクトは、全てのトラックで共用するエフェクトでディレイとリバーヴの2系統の空間系エフェクトが使用できます。

マスターエフェクトは音声出力の最終段階でサウンド全体にかかるエフェクトで、ハイパスフィルターとビートリピートといった主にライブパフォーマンス向けのエフェクトやコンプレッサーや5バンドEQが使用できます。

ここで特徴的な機能は、本体に搭載されているエフェクトのパラメーターを操作する3つのタッチスライダー。こちらではタッチスライダーに置いた指を上下させるなどして、トラックエフェクトとマスターエフェクトのかかり具合を直感的に操作できます。

そのほかにSEQTRAKには作った曲にまるごとスウィングをかける機能や各トラックの音量を調整するミキサー機能、作ったパターンを並べてひとつの曲にするソング機能なども搭載されており、触れ込みどおり、これひとつあれば、本当に1曲まるっと作れてしまいます

SEQTRAKをフル活用するための「専用アプリ」

SEQTRAKをさらに活用するためにおすすめしたいのが、専用アプリ。このアプリはWindows/Mac版のほか、Android/iOS版が用意されており、好みの環境で使用できます。SEQTRAKを付属のUSBタイプCケーブルで各種デバイスと接続する、あるいはBluetooth接続するとふたつが連動し、各種パラメーターの調整や打ち込みなどをアプリ上で行なえるようになります。

アプリは本体デザインと同じくシャープなデザインのGUIになっていますが、なんといってもこのアプリを使用するメリットは、視覚的に、いま何をしているかがわかりやすくなるところ。

SEQTRAKアプリ1
SEQTRAKアプリ。視認性の高いGUI。各種パラメーターの状態が把握しやすい。

SEQTRAKは、先述したとおり単体でもなんでもできる優れものですが、本体にディスプレイが搭載されていないため、特に「いま自分が何の音源を使っているかがわかりにくい」ところがあります。特にSEQTRAKには大量のプリセット音源が入っているため、ツマミを回してひとつずつ音を確認していると、すぐに時間が溶けてしまいます。

それがもったいないと思う人はアプリを使うことを強くおすすめします。たとえば、シンセサイザーにオルガンの音を入れたい場合、アプリの「シンセ&サンプラー」ページをひらけば、各種サウンドのジャンルが表示され、その中から自分の使いたいプリセット音源をサッとセレクトできます。

SEQTRAKアプリ2
SEQTRAKアプリ。シンセにロードしたい音を各カテゴリーから選ぶ際の画面。

また、細かくサウンドデザインやミキサーでの各トラックの音量調整をしたい場合も、見やすいGUIで視覚的にどのパラメーターをどの程度触っているか一目でわかります。それとアプリ経由でPCやスマホにSEQTRAKで作成したプロジェクトをバックアップ/リストア、サンプルの追加や削除、追加コンテンツのダウンロード、各トラックのサウンドを指定したプロジェクトの新規作成といったコンテンツ管理も手軽に行なえます。

あとアプリには、ビジュアライザー機能も搭載されています。この機能では、SEQTRAKで作った曲に映像を簡単につけられます。

使い方は簡単であらかじめ用意されているプリセットをそのまま使用すれば、すぐにオーディオビジュアル作品を作ることが可能。また、映像で使用するオブジェクトやエフェクトはカスタマイズできるため、より自分好みの映像に仕上げていけるところもポイントが高し。

SEQTRAKアプリビジュアライザー
ビジュアライザーの設定画面。各トラックに反応するオブジェクトやエフェクトを自由に入れ替えられる。

さらに映像をつけた音楽はアプリ上で録画できるため、すぐにSNSに投稿することも可能。曲作りの上手い下手に関わらず、自分で作った音楽はやっぱり誰かに聴いてもらいたい。そんな時にかっこいい映像付きなら、より人に聴かせたくなりますよね。そんなユーザー心理をしっかりと理解しているヤマハさん、本当にニクいですよね。

ちなみにビジュアライザー機能は、スマホやタブレットの場合、AR機能も使用できます。

たとえば、SEQTRAKをスマホのカメラで読み込むとビジュアライザーで選択したARレイヤーを実際の演奏する様子に重ねることが可能。先述の映像だけでも十分かっこいいものができますが、自分のSEQTRAKさばきをかっこよく見せたい人はこちらを活用するといいでしょう。

このようにSEQTRAKは、本当にたくさんの機能が搭載されているので、使いこなすまでにはそれなりに時間がかかる印象もあります。しかし、アプリには本体を操作しながら使い方を学べる「ダイナミック・チュートリアル」という機能も用意されています。

こちらでは本体を操作すると、その操作の解説や関連する操作方法がリアルタイムにアプリ上に表示されるので、今触っているボタンやツマミで何ができるかわからなくなったときも安心。操作方法を確認しながら音楽制作をすすめましょう。

ダイナミックチュートリアル
ダイナミック・チュートリアル。本体を操作すると、その操作の解説や関連する操作方法がリアルタイムで表示される。

本体とアプリ連携で活用の可能性がグッと広がるSEQTRAKですが、MIDI機能を使ってDAWや外部シーケンサーと連動させてみるとさらに可能性が広がりそう。

この値段でこれだけできるなら、きっと買って損はないと思いますよ。



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